恋愛や性の悩みは人それぞれです。
セックスレスで不安や不満を感じている人、不倫の恋に誘惑されている人、恋人ができなくて悩んでいる人や、夫婦生活はあるけれど悦びがないという人……。
自分では性の悩みだと気づかずに、パートナーとの関係に息苦しさを感じている人もいます。
仕事柄、相談を受けることがたくさんありますが、女性だけでなく、男性も多いです。
恋愛や性は、誰の人生とも切り離せない、とても大切なことなのだと実感すると同時に、その人が、性の旅の「どの地点にいるか」がよく見えるようになりました。
もちろん、本人には見えにくいものですから、
「ここからここまで来た人なんだな」
と把握して、次へと背中を押したり、ちょっと前に戻ってもう一度景色を眺め直すよう勧めたりしています。
恋愛でも性的面でも、うまくいっている時はわたしのおせっかいなど、もちろん必要ありません。
とくに女性には、日常で折りたたんでいるセクシャリティの羽をうんと伸ばして、妖精のように軽やかに飛びまわり、心とからだを愛としあわせでいっぱいに満たしてほしいと心から願っています。
けれど、なにかに羽が引っかかって破けてしまう、あるいは、そこから先に進めなくなる岩のようなものが出てくると、どうしたらいいのかわからなくなってしまうわけです。
悩みは人それぞれでも、その原因は、だいたいほぼ共通しているのですね。
ですから、わたしがすべての女性に伝えたいのは、「性の快楽やセックスのすばらしさ」ではありますが、いくつかは否定的なことにもふれる必要があると感じています。
何をしてもいい自由な世界だからこそ、悲しい思いをしたくない……であれば、どうか性やセックスを「ストレス解消手段」だと考えないでくださいね。
なぜなら、あなたがそう考えたら、あなたも「ストレス解消手段」にされてしまうからです。
男女が対等な関係なのはもちろんですが、心とからだのしくみは横並びの対等さではありません。
裏と表、真逆という意味での対等さです。
セックスでストレス解消をする男性たちがいたとしても、女性には、それは真似したくてもやっぱりできないのです。
ある日相談を受けた、40代のさる既婚キャリアウーマン、Uさんの話です。
仕事が大好きで、人一倍の努力でキャリアアップをしてきた彼女は、同業の夫と相談して、子どもを持たない人生を選んでいました。
夫婦関係も対等で、お互いに束縛しないで興味のあることはどんどんしよう、と意気投合していたそう。
けれど、趣味のサイクリングに熱中していて仲間も多い夫に、しだいに疎外感を感じるように。
結婚10年、40代に入ると、Uさんのほうはもう興味のあることをほとんどやり尽くして、つまらなくなってきたのです。
でも、ずっと対等を主張してきたUさんは、今さら夫に甘えるのもプライドが許さず、さみしさを募らせていきました。
夫婦生活も年に3.4度で、自分から誘うのもくやしく、抑えていたとか。
ある日、仕事で知り合った既婚男性に誘われ、肉体関係を持ちます。
ダブル不倫ですね。
「セックスがしたかったというよりは、溜まったストレスを一気に発散したかった。意地を張って夫と距離を取ってしまういらだちや、不条理な仕事疲れをぜんぶ忘れて、ちがう自分になれた気がしたんです」
不倫の彼は、性的好奇心の強い人でした。ふたりでいる時はアダルトビデオを一緒に鑑賞し、奇抜な体位や、プレイと呼ばれるシチュエーションを真似したりと、バラエティに富んだセックスをしてきたそう。
Uさんも、最初のうちは解放感があって楽しかったそうですが……。
「だんだん飽きて苦痛になってきました。ちがう自分なんていないんだなとわかってきた頃、一緒にいて楽しかった彼が汚い人に見えてきて、今度は彼にいらだちが募っていきました」
約一年つきあったある晩、別れを告げると、彼は笑顔でこう言いました。
「今までありがとう。君とセックスすると本当にスッキリできた。いいストレス解消だったから残念だよ」
その言葉のショックがあまりにも大きく、今も思い出すだけで勝手に涙があふれてしまうと、Uさんはハンカチで目を拭いました。
これはたしかにつらいと思います、自分とのセックスがストレス解消だなんて。
でも、そう扱われた原因が、Uさんにないとは言えません。
性のふれあいは、海馬や視床下部といった脳の深部、神経ニューロンの働きにも関わるため、あなどれません。
言葉以上に相手の気持ちが伝わり、同じふうになろうとする力が働きます。
いらだちにはいらだちが、劣等感には劣等感が、攻撃には攻撃が返ってきます。
視覚ではわからない、目に見えない影響をからだと心に残すのですが、アダルトビデオから、その大切なことをくみ取るのは至難のわざです。
観るのは好みでいいと思いますが、知識のないまま煽情的すぎる視覚に酔わされてしまうと、あとあとつらいのは女性側です。
Uさんのストレスもよくわかります。
わたし自身も似た経験がありますし、同じような悩みを抱える女性は少なくありません。
でも、行き場のない怒りや不満のはけ口には、なにか他の手段を選ぶべきだという気がします。
「セックスがすばらしいとは、とても思えない。やり尽くしてみるとあんなにバカバカしいことってない。侮辱まで受けて……もう一生したくない!」
かわいそうに、Uさんが流す涙は、傷ついた心からしたたる血のように感じられました。
第三者のわたしは、傷を治す方法を教えてあげることはできます。
けれども、実際に治せるのはだれかというと、たったひとり、裏切ってしまった夫だけです。
女性の性には、男性にはない重いしがらみのようなものが、たしかにあります。
それは、生殖のための大事なからだを守ろうとする、生まれ持ったしくみですから、どうすることもできない部分があります。
ライトでカジュアルな、愛のないセックスもできないわけではありませんが、閉経するまでは快楽を得にくく、相手に恨みを抱く結果になりがちです。
男性は、遊び好きに見えた女性が誠実さを見せると、ギョッとして逃げていきます。
反対に、誠実さを感じていた女性がちょっと遊び心を出すと、もっと魅力を感じて執着してきます。
ということは、あなたはそのままでいたほうが、ずっと楽でお得ですよね。
セクシャリティを花開かせるということは、自分に正直になり、背伸びした演技をしないことにつながるわけです。
愛としあわせを実感する性の悦びにたどり着く前に、セックスや男性に嫌悪感を抱くのは、残念なことですし、もったいない気がします。
Uさんは不倫をした罪悪感で、夫といっそう距離を取るようになったそうですが……。
実をいうと、してしまったことへの罪悪感も要りません。
陰の世界はどこまでも心とからだの世界です。
とても広くて大きくて、陽の世界の社会性をものさしに、何ミリ何センチの誤差でおろおろするのはナンセンス。
そんなことよりも、愛があるかないかが重要です。
ひとりくよくよと後悔しているくらいなら、自分から夫に抱きついて、さみしかったことを打ち明ける勇気を持って。
そういうと、Uさんは少しホッとしたようにうなずきました。
女性は性的に男性よりも不利だという声も多いのですが、わたしはそうは感じません。
視野を広げられていないだけのように思います。
女性のからだをもののように扱い、自分に都合よく欲求を満たそうとする男性もいますが、そうした人が後年健康問題で苦しまないか、心配しているくらいです。
愛のあるじっくりとしたやさしいふれあいセックスで得た女性の性的快楽成分、ことにオキシトシン・ホルモンは、加齢による細胞の劣化を防ぎ、とりわけ男性に多い免疫細胞の狂いを正常に直してくれる、不老長寿の秘薬でもあるのです。
もちろん、女性自身も、みずみずしい美しさを保てます。
感覚の繊細な広がりがすべてを浄化してくれる上に、男性も巻きこむ神秘的なパワーに満ちた女性性の悦び。
生まれ変わってもまた女になりたいと思えるような、すてきな陰の旅を続けていれば、あなたもいつかきっと見つけられます。
男性的快楽に甘んじないことを、どうぞお忘れなく。
