心はとうめいな水たまりのようなもので、
空とおなじ色に、すぐ変わるよ。
空の色とは、きみが自分の目で見たなにか、ということだね。
映る光景、ニュース、写真や言葉。
それらが、かなしい寒色なら寒色に。
たのしい光景、ニュース、写真や言葉なら、あかるい暖色に、心は一瞬で染まるんだよね。
人の弱さというのは、そこなんです。
だから、心の色を外の景色ばかりで染めないで、
たまには目を閉じて、なにも見ずにいたっていいと思うよ。
あんまり追いこまれずに、
むかしのたのしかったことや、
うれしかったことなんかを思いだしてさ、
はてしなく蒼かった空の色で、心の水たまりを染めてみて。
わたしも、そうやって心を染めかえることがよくあるよ。
幼かったきみの笑顔でね、
きみは、きみ自身の笑顔を自分の目で見ることができないから、思いだしにくいかもしれないけど、
わたしの心のなかには、
色とりどりにあかるい笑顔のきみが、たくさんたくさん棲んでいるのよね。
だから、どんなときでも目を閉じて、好きなだけ思いだせるってことが、母さんの強さなのさ。
今日のように、窓の外がずっとさみしい灰色だったときは、とくに、
(きみはどうしているかなあ)
と、すこしやきもきしながら、そんなふうに思います。
