やさしいふれあいで起きたフェレクションから、どんな経緯でオーガズムにたどり着くのか、駆け足でざっとシミュレーションをしていきましょう。
ふたたび、男性器のエレクション時を、イメージしてみてください。
男性は絶頂感に向かって、手淫であれば手で、セックスであればピストン運動で、海綿体に摩擦系の刺激を送り続けますね。
女性の場合も、それと同じようにクリトリス海綿体への刺激が必要なのですが、だれも直接ごしごし触れることができません。
できるのは、自分の下腹部内にある、骨盤低筋群(こつばんていきんぐん)くらいです。
ですから、このクリトリス海綿体に刺激を送る重要性を経験的に覚えている女体だと、脳の神経ネットワークが確立されているため、無意識に骨盤低筋群が動き始めます。
男性の場合の、手や膣の代わりですね。
もちろん、摩擦ほどの刺激は無理ですから、下腹部が総動員してクリトリス海綿体を揺り動かすような、撫でさするようなイメージです。
この時、そっと愛撫している側の男性には、女性はただ横たわって、やすらいでいるようにしか見えないかもしれません。
この状態を、「マグロ」と呼んで嫌う男性の声もよく耳にしますが、そうした誤解も女性をオーガズムから遠のかせる要因になっているでしょう。
オキシトシンは、からだが休んで理性が閉じている時に多く分泌されるからです。
アダルト情報に多い、女性が大声をあげたり、ハデに悶えている姿は、ほとんどパフォーマンスに近いもの。
実際には、静かな姿態の下でこそ、ものすごい量の目に見えない活動が起きています。
クリトリス海綿体や骨盤低筋群に激しい躍動をさせるために、血液もじゃんじゃんと下腹部に送られます。
それがさらに、陰部神経や、子宮、ポルチオ(子宮頚部)、膣につながる下腹部神経(かふくぶしんけい)、骨盤神経(こつばんしんけい)、その他の副交感神経(ふくこうかんしんけい)を総動員し、全身からラッシュで届く〈良い情報〉に、脳内も大忙しです。
膣や子宮も、巻き込まれるように動き始めます。
子宮は筋肉が発達していますから、力強い収縮をくりかえし、快楽度が高ければグーッと膣口(ちつこう)のほうへと降りてきては、膣奥に精子プールと呼ばれる空洞を作ります。
このときに、男性の指や性器が膣に挿入されていると、子宮の入り口にある子宮頚部(ポルチオ)の吸いつくような動きがわかるでしょう。
吸いついたら、また奥へと引きあげられます。
つまり、膣と子宮が、《縮む》《引っぱられる》の動きをします。
その間、骨盤低筋群も負けじと激しい収縮を見せ、女性の下腹部は大変な躍動のさなかで、本人には、クリトリスも膣も子宮も境目がなくなったように、感覚が「快楽」だけになっていきます。
理性もほぼなくして、多量の脳内麻薬様物質がいざなう夢幻快楽へ旅立つ準備をしています。
もどかしさにあえぎ、腰や全身が勝手にくねくねとよじれ出します。
この様子を目にした男性は、あきらかに演技ではない、迫力の妖艶(ようえん)さに息を飲むでしょう。
この自然な高まりを上手にサポートする男性の愛撫が、まるでからだ中の細胞すべてに波動を送っているような強い伝導感覚をもたらし、いろいろな条件を満たしたタイミングで、おそらくは交感神経に切り替わり、絶頂に達します。
昇天……天に昇(のぼ)るという言葉もありますが、まさに、宇宙に飛ばされたかのような、壮大な快楽です。
その状態は、
(今、わたしイッたのかな)
(これがオーガズムなのかな)
と、頭(意識)で判断するようなものではなく、心身に焼きつくような絶対的な感覚ですから、あなたが体験した時もはっきりとわかります。
この最大レベルのオーガズムが起きるのは、男性器が挿入されているときかもしれないし、指や舌で愛撫されているときかもしれません。
何度かドーパミン型絶頂をした後に、総仕上げのように起きることもあるでしょう。
いずれにしても、オーガズムに到達した女性の脳からは、オキシトシンがドッと放出されて、全身をかけめぐるのが特徴です。
男性の射精に代表されるドーパミン型絶頂は、陰部神経から脊髄を通り脳神経まで走る「背筋を貫くような快感」ですが、オキシトシンがもたらすオーガズムは、脳に届いて終わりではなく、それから全身細胞へ回るため、「頭頂から足の指先まで、からだ中がとろけていくような快感」となります。
オーガズムが訪れる予兆として、膣の感覚が麻痺することが挙げられます。
膣の締めつけ感がなくなり、「バルーン現象」と呼ばれる弛緩状態に入ります。
たとえば、出産では、女性が痛みに耐えられないだろうために、膣に麻痺が起こります。
オーガズムの予兆でも、それと同じように、続々と大量分泌されるオキシトシンによって副交感神経優位に切り替わり、それまで旺盛に収縮活動をしていた骨盤底筋群が締めつけをやめて、「疑似出産態勢」に入るのだと思われます。
このとき男性器の挿入があったとしたら、英語で「PENIS IS LOST」と言われる空洞感を感じるようですが、男性側もすでに多くのオキシトシン分泌が起きているため、ドーパミン放出とは異なる、ふわっとした浮遊感に包まれます。
おたがいのからだと心の境い目がなくなり、全身がとろけていく感覚の中に、肯定感、救済感そして、生と性の美しさを共有しあうでしょう。
大量のオキシトシンがスパークするオーガズムでは、次のような感覚を味わいます。
【オキシトシンのスパーク時】
暗闇に小さな光が強くキラキラとはじけている感覚
⇒異空間に無限の星々がまたたく宇宙イメージに似ている
【オキシトシンの血中流出時】
やや時間をかけて、快楽が全身にゆっくりと回る
⇒オキシトシン・ホルモンが、全身に散らばるオキシトシン受容体に快楽信号を送り、全身に伝達される
【オキシトシンが作り出す情動】
言葉にならない感動がこみあげる
⇒出生時の身体パニックを乗りこえた安堵の記憶・生誕の喜悦感・祝福感
生殖とスピリチュアリズムの章でもお伝えしたように、生まれてきたことの悦び、スピリチュアルな宇宙的恍惚感に漂い、覚醒してからも、自己肯定感と幸福感で満たされます。
感動の涙があふれる女性も少なくないようです。
あなたも、赤ちゃんに授乳をする女性の姿に、どこか神々しい気配を感じたことはないでしょうか。
オキシトシンオーガズムは、まさにこれと同じ作用を女性に及ぼす、セックスにおける究極的な性現象です。
男性の脳にも、それまでなかった新たなオキシトシン分泌回路を作りあげるのだと考えられます。
身も心もとけあう夢のようなセックスの正体は、こうした目に見えないオキシトシンの働きだと思って間違いありませんが、もっとも大きな特徴は、「男女の心とからだを守る」ことにあるでしょう。
ことに男性は、生殖年齢を過ぎると、ガンや高血圧、糖尿、心臓系に脳疾患ほか、心身のあらゆる病気が起きやすくなります。
一章でお伝えしたように、バソプレシン分泌がからだに負担をかけ続けるためですね。
そして、中年期に入ると免疫細胞が暴走するようにおかしな働きをし始めるのですが、この細胞活動の狂いも、オキシトシン分泌で正常に直ることがわかってきたようです。
おそらく、男女がやすらげるセックスは、人体がすこやかに長く維持されるために、初めから必要なものだったのではないでしょうか。
男性は陽。
女性を守り、喜ばせたい本能の持ち主。
女性は陰。
守られ、喜ばせてもらうことで男性に生命力を与える存在。
このいにしえの陰陽法則も、あながち、ただのロマンチシズムではないことが浮き上がってきます。
オキシトシンは、「相手を守り続けたい!」っていう愛情を生み出すよ。
だから、決まったパートナーとのエッチでオーガズムに到達することが大切だよ。
もちろん夫婦ならめっちゃハッピーエンドレスラブだねー!
