では、一度大きく深呼吸をするように、クローズアップされたセックスへの視点を、ぐーっと引いていきましょう。
たとえば、知らない国を旅行するとき、全体像が見わたせる地図は強い味方になりますからね!
同じように、愛と性の全体像を見わたすためには、シンプルでわかりやすい陰陽法則が強い味方になってくれます。
陰陽法則とは、複雑な哲学や、病気を治す東洋医学の大本でもある、心とからだのしくみです。
ひとことでいうと、人の心とからだは一体であるということ。
わたしたちは、からだだけで生きることも、心だけで生きることもできません。
からだを使えば、かならず心がついてきますし、逆もあります。
セックスという、からだの最も繊細かつ根源的な箇所を使う行為が、心に影響を及ぼすのはふしぎなことではないのです。
昼と夜。プラスとマイナス。表と裏。
正反対のものが背中あわせにくっついて、両方のバランスがぴたっと取れた時に、はじめて〈存在〉や〈実感〉が生まれます。
光と影。目に見えるものと見えないもの。男と女。
心とからだ。
あらゆる〈存在〉には表と裏があり、どちらもおたがいに影響を及ぼしています。
目に見える世界を、陽世界といいます。
昼間の活動、社会生活を意味します。
一方、目に見えない世界を、陰世界といいます。
夜の活動で、からだの内側の癒しや休息、栄養補給の営みを意味します。
具体的には、栄養価の高い夕食をゆっくり食べたり、ぐっすりと眠ること。
そして、疲れた心を癒して、からだ全体をすこやかに整えるという考えから、愛・セックス・性の快楽を感じる世界を意味します。
あなたも日々の暮らしの中で、人やできごとに出逢ったり、知らない店や街へ出かけ、感動や喜びを味わう経験を積み重ねて生きていることでしょう。
現実世界を生きること。
それはすなわち、陽世界の旅です。
基本的には、外界との交流、コミュニケーション。
仕事ももちろん、陽世界での活動です。
たくさんの人相手ですから、時にはつらく悲しい思いも避けられません。
知らず知らずに重い荷物をせおってクタクタになり、旅を続ける元気を失くした日もあったのではないでしょうか。
こうなった時に大切なのは、なるべく早く陰世界へ行き、すり減った生命エネルギー(=愛=オキシトシン)を補充することです。
そして、心もからだもいきいきと輝きを取りもどし、前向きに、笑顔で陽を生きる。
それが、本来の性的快楽の役割です。
この陰陽法則を、近代医学に置き換えてみますね。
人のからだには、太陽の光を元にした体内時計が機能しています。
昼間は、交感神経という、からだの機能をより活動的にさせる神経が優位に働きます。
心にも、やる気、挑戦心、競争心、快活さや、緊張感をもたらします。
この交感神経がしっかりと働くように、脳の深部で司令を送っているのが、バソプレシンというホルモンです。
一方、太陽が沈んだ夜は、副交感神経という、からだの活動機能をある程度リリースして、休息に向かわせる神経に切り替わります。
心には、リラックス感、やすらぎ、くつろぎ、解放感をもたらします。
副交感神経を優勢にさせるよう、脳神経を操っているのが、オキシトシンです。
陽世界では元気いっぱい、情熱的に、活動的に。
陰世界では、ゆったりやすらいで、明日への活力をたっぷりチャージする。
こんなふうに、自分で意識しなくても勝手にコントロールしてくれるよう、わたしたちのからだの中では、バソプレシンとオキシトシンが働いています。
さて、陰世界です。
神経や内臓機能が、昼間の緊張やがんばりから解き放たれる夜の営みを、心もからだも必要としています。
けれども、セックスが、そんなリラックスややすらぎの行為だと、あなたは思えるでしょうか。
むしろ、鼻血が出るほど興奮してみたいとか、たまらなくエキサイティングなことであってほしい。
昼間抑圧していたものを、思いっきりスパークさせたい。
そう思うかもしれません。
思うのは自由なのですが、からだの機能に即しているとはいえません。
陰世界の陰とは、愛のホルモン・オキシトシンが司る、女性性の意味でもあります。
男性は、陰陽法則では、陽に当たります。
女性は陰でしたね。
つまり、セックスは、愛ややすらぎ、安心感といった女性性を盛りあげていかないと、うまくいかないようなしくみがあるのです。
ところが、セックスといえば、女性も男性も、男性的な興奮やワイルド性、刺激に満ちた激しい快楽を連想してしまうのではないでしょうか。
後ろめたい行為だとか、危険で悪いことだというイメージもつきまといます。
これでは、陰世界へ足を踏み入れても、心地の良いやすらぎの快楽をわかちあおうという展開には、なかなかなりませんよね。
そのために、セックスで傷ついたり、悩みを抱えたりしてしまいます。
すると、セックスの良くないイメージが、ますます広まります。
結果、今の社会の多くの人たちが、自分や他人の性をないがしろにしたり、陽世界だけで日々を終え、大切な陰世界を閉ざしているのです。
世界にも人にも、陰と陽があるよ。
昼間は活動、夜は休息。
愛のホルモンでやすらぐ時間は、生命の栄養補給だよー。
